今回は、サッカー中に太ももを強く打撲した12歳の男の子の症例をご紹介します。
太ももの打撲自体は、サッカーなどの接触があるスポーツではそれほど珍しいケガではありません。ただ今回のケースでは、エコーで経過を追っていく中で少しずつ画像に変化がみられ、整形外科へ紹介したところ、CT検査で「骨化性筋炎」が確認されました。
初期の血腫からその後の変化まで継続してエコーで観察できた症例なので、実際の画像と一緒に経過をご紹介します。
CASE|今回の症例
12歳男子/サッカー中の大腿部打撲
サッカー中、相手選手の膝が太ももに当たり受傷しました。金曜日に受傷したあとも土日の練習には参加していましたが、徐々に痛みと腫れが強くなり、月曜日に当院を受診しています。
来院時には歩行時の痛みがあり、太ももは外から見ても腫れていました。押したときの痛みもかなり強い状態でした。
POINT 01
エコーで確認すると、筋肉の中に血腫が
まずエコーで太ももの状態を確認しました。
大腿四頭筋の中でも、大腿骨に近いところにある「中間広筋」という筋肉の中に血腫が確認できました。

真ん中下の画像は大腿部(太もも)の輪切り画像です。赤丸のところを拡大した画像が短軸画像で描出されています。
中間広筋内に血腫を確認。左が短軸、右が長軸で観察した画像です。
強く打撲すると、皮膚の表面には大きな傷がなくても、その下にある筋肉が損傷して出血していることがあります。今回も見た目としては「太ももの打撲」ですが、エコーで中を確認すると、筋肉内にはしっかりと血腫ができていました。
こうした状態をその場で確認できるのは、エコーのメリットの一つです。ただ、強い打撲では一度確認して終わりではなく、その後どう変化していくのかを見ることも大切です。
POINT 02
7日後、エコーの見え方にも変化が
その後もエコーで経過を追いました。受傷から7日後の画像を見ると、中間広筋の中に黒っぽく見える低輝度の部分と、白っぽく見える高輝度の部分が混在しています。

血腫はずっと同じように見えるわけではなく、時間の経過とともに内部の状態が変わり、エコーでの見え方も変化します。そのため、この段階で「白く見えるから骨化している」と判断するわけではありません。
エコー画像だけではなく、痛みや圧痛、腫れ、動きなどがどう変化しているかも含めて経過をみていきます。
POINT 03
経過が気になり、整形外科へ紹介
その後も経過をみていましたが、長期の療養が必要になる可能性も考え、整形外科へ紹介しました。
受傷から14日後にCT検査を行い、そこで筋肉内に骨が形成される「骨化性筋炎」が確認されました。

骨化性筋炎とは、打撲などをきっかけに、筋肉などの軟部組織の中に骨が形成される状態です。大腿四頭筋の強い打撲後などに起こることが知られています。
初期には単純なレントゲンでは分かりにくい場合もあり、今回のようにCTで骨化の状態を確認することがあります。
POINT 04
15日後、エコーにも骨化を示す変化が
CTを撮影した翌日、受傷15日後のエコーでは、初期の画像と比べてかなり見え方が変わっていました。
白く見える高輝度の部分がよりはっきりし、その奥には「音響陰影」と呼ばれる黒い影が確認できるようになっています。

石灰化や骨化が進んで硬い組織が形成されると、超音波がその先まで届きにくくなり、その後方が影のように見えることがあります。
今回の症例で興味深かったのは、最初に血腫を確認した場所を継続して観察していたため、こうした変化を時間経過とともに追えたことです。
POINT 05
骨化性筋炎と分かってからのリハビリ
骨化性筋炎が確認されたあとも、ずっと完全安静にしていたわけではありません。一方で、痛みを我慢して運動したり、強くストレッチしたりすることは避けました。
当院では局所の状態を確認しながら物理療法なども行い、痛みの出ない範囲では身体を動かしていきました。症状が落ち着いてくれば少しずつ運動量を増やし、日常生活から軽い運動、その後はサッカーの動きへと段階的に戻していきます。

「骨化があるから動いてはいけない」というわけではありませんが、だからといって痛みを我慢して動かすわけでもありません。痛みや圧痛、動きなどを確認しながら、その時点でできることを少しずつ増やしていきました。
POINT 06
徐々にサッカーへ復帰リハビリ
受傷から6週間後には、初期にみられた大きな血腫は目立たなくなり、エコー画像もかなり変化していました。この頃には運動も徐々に再開しています。

スポーツ復帰については、エコー画像だけで判断したわけではありません。痛みや圧痛、可動域、筋力に加えて、実際に走ったりボールを蹴ったりしたときの状態も確認しながら運動強度を上げていきました。
最終的には圧痛もなくなり、サッカーへ完全復帰となりました。
今回の症例で改めて感じた「初期対応」の大切さ
今回の症例を振り返って、特に気になったのが受傷直後の経過です。
この子が太ももを強く打ったのは金曜日でした。その後も土曜日、日曜日とサッカーの練習を続け、痛みと腫れが強くなって月曜日に来院しています。
この経過を見ると、「打った直後に運動を中止して、早い段階で対応できていたら経過は違ったのかな」と考えます。
もちろん、土日に練習を続けたことが原因で骨化性筋炎になった、と断定することはできません。また、受傷直後に運動を中止していれば必ず防げた、というものでもありません。
ただ、大腿部を強く打撲すると筋肉内に出血して血腫を形成することがあります。また、大腿四頭筋打撲についての研究では、治療開始までに時間がかかったことなどが、その後の骨化性筋炎発症と関連する因子として報告されています。
そのため、強く打ったあとに痛みや腫れがある状態で、そのまま無理をしてスポーツを続けることはおすすめできません。
NOTE|受診の目安
スポーツ中に太ももを打ったあと、歩くだけでも痛い、太ももが目に見えて腫れている、膝を曲げるとかなり痛い、時間が経つにつれて痛みが強くなっているといった場合には、「ただの打撲だから」と無理に運動を続けず、一度状態を確認することをおすすめします。
特に子どもは「試合に出たい」「練習を休みたくない」という気持ちもあります。見た目だけではどの程度傷めているのか分かりにくいこともあるため、強く打ったあとに痛みや腫れが続いている場合には、一度競技を止めて状態を確認することも大切です。
打撲も「その後どうなっているか」を見る
今回の症例では、最初にエコーで血腫を確認し、その後の変化をみながら整形外科へ紹介し、CT検査で骨化性筋炎が確認されました。その後も症状やエコーの状態をみながら運動量を徐々に増やし、最終的にはサッカーへ復帰しています。
もちろん、エコーだけですべてが分かるわけではありません。実際に触って圧痛を確認し、動きを見て、本人から痛みの変化を聞く。そのうえで必要があれば整形外科へ紹介し、レントゲンやCT、MRIなどの検査につなげます。
太ももの打撲はスポーツではよくあるケガです。だからこそ「打撲だから大丈夫だろう」と決めつけず、強い痛みや腫れがあるときには無理をしないことが大切です。
今回の症例から、改めて感じたことです。
CHECK|今回のポイント
- 強い大腿部打撲では、筋肉内に血腫ができることがある
- エコーでは受傷直後だけでなく、その後の変化も観察できる
- 大腿部打撲後に骨化性筋炎を生じることがある
- 必要に応じて整形外科へ紹介し、CTなどの検査につなげる
- 痛みや腫れが強い状態で無理にスポーツを続けない
- スポーツ復帰は画像だけではなく、症状や機能も含めて判断する
